子宮頸がんの治療

子宮頸癌の術後補助療法について

子宮頸がんのⅠB〜Ⅱ期では広汎子宮全摘後に追加治療が必要な場合があります。

扁平上皮癌は放射線がよく効くのですが、腺癌には効きにくく、腺がんに対して本当に放射線治療が必要なのかエビデンスが少ないのが現状です。

※2023年9月時点での情報をもとにまとめています

術後の再発リスク因子

再発のリスクには以下の5つがあります。

・子宮頸部腫大(腫瘍の大きさ)

・間質浸潤(腫瘍の深さ)

・脈管侵襲の有無(血管やリンパにがん細胞がいるかどうか)

・子宮傍結合織浸潤の有無(子宮を支える靱帯へのがんの浸潤)

・骨盤リンパ節への転移

この中で、骨盤リンパ節への転移が再発リスクとして最も重要といわれています。

この5つがどうかを病理組織で確認し、低〜高リスクのいずれかに分類されます。

大きい、小さい、深い、浅いに関してははっきりと何cmや何mmと決められておらず、各施設での判断となります。

ガイドライン上の術後補助療法

低リスクの場合

上記の5つをひとつも満たさない場合です。

再発のリスクは低いとされ、一般的には追加治療は不要です。

中リスクの場合

低リスクでも高リスクでもない症例です。

ガイドラインでは放射線療法単独、もしくは同時化学放射線療法となります。

放射線療法は1日1回30分ほど、週5日、5-6週間(全25〜30回)。

同時化学放射線療法は、各施設によって異なりますが、放射線治療は上記と同じスケジュールで、それに加えて化学療法(抗がん剤)を実施します。

化学療法のレジメン(投与する薬剤の種類とプラン)によって3-4週間ごとに3-6回ほど行います。

シスプラチンを使用する施設が多いです。

高リスクの場合

骨盤リンパ節転移、子宮傍(結合)組織浸潤のどちらか、もしくはどちらもある症例です。

再発リスクが高く、同時化学放射線療法が選択されることが多いです。

術後補助療法については何がいいか、まだよくわかっていない

扁平上皮癌、腺癌どちらにも言えることですが、実はまだはっきりとしたエビデンスが少ないのが現状です。

・骨盤リンパ節転移がある場合、その転移の個数、部位によって予後に差があり術後補助療法の個別化が必要という報告

・腫瘍径でも2cmや4cmで区切って様々な基準での治療の個別化が必要という報告

・腫瘍径は再発リスクに関係なくリンパ節転移の有無のみが独立した予後因子であるとの報告

・脈管侵襲はリンパ節転移の予測因子(脈管侵襲があるとリンパ節転移が多い)ではあるが予後には関係ないという報告

・再発中・高リスク群に対して術後化学療法のみを行う試みがされている。遠隔転移の抑制については放射線治療よりも優れている可能性や、放射線治療に伴う副作用(腸閉塞、腸炎、下肢リンパ浮腫など)を減らせるメリットがあるが、まだ術後放射線治療より優位性が示されているわけではない

このように様々な論文が出ており、各施設によって対応はまちまちです。

腺癌の場合

現在は扁平上皮癌も腺癌もガイドライン上では術後補助療法も同一にまとめられています。

しかし上述したように、子宮頸がんの75%を占める扁平上皮癌は放射線治療が効きやすいのですが腺癌には効きにくいことが知られています。

放射線治療は腸炎や下肢リンパ浮腫などの副作用もあることから、デメリットの方が大きくなるかもしれません。(効かないのに副作用だけ出る)

術後補助療法として放射線療法をした場合の扁平上皮癌と腺癌の比較

Mol Clin Oncol. 2013 Jul; 1(4): 780–784.

Comparison of the outcome between cervical adenocarcinoma and squamous cell carcinoma patients with adjuvant radiotherapy following radical surgery: SGSG/TGCU Intergroup Surveillance

M.Shimada, et.al.

鳥取大学の産婦人科、島田先生が2013年に出された論文です。

・組織型は病期Iの患者の転帰には影響しなかったが、病期IIの腺癌患者は扁平上皮癌患者と比較して5年全生存率(OS)が有意に不良であった

・リンパ節転移のある患者において、腺癌患者は扁平上皮癌患者と比較して有意に悪い5年生存率を示した(腺癌46.4%、扁平上皮癌72.3%)

・術後放射線治療を受けた患者のうち、腺癌を有する患者は扁平上皮癌を有する患者に比べて再発頻度が高く、特に膣切端や骨盤を含む骨盤腔に再発した(腺癌24.6%、扁平上皮癌10.5%)

腺癌に対する化学療法と放射線療法の比較

Eur J Gynaecol Oncol. 2013;34(5):425-8.

Comparison of adjuvant chemotherapy and radiotherapy in patients with cervical adenocarcinoma of the uterus after radical hysterectomy: SGSG/TGCU Intergroup surveillance

M.Shimada, et.al.

同じく鳥取大学の産婦人科、島田先生が2013年に出された論文です。

腺癌患者263人と腺扁平上皮癌(腺癌と扁平上皮癌のミックス)患者58人の計321例の検討。

このうち151例が術後補助療法を受けた。

69例が放射線治療単独(同時化学放射線治療(CCRT)を含む)、64例が化学療法単独、18例が放射線療法と化学療法の併用(CCRTではない)をされた。

結果、5年全生存率は、放射線療法単独群(CCRT含む)で70.9%、化学療法単独群で79.2%、放射線治療+化学療法を受けた患者で66.2%であり有意差を認めなかった。

→術後補助療法として化学療法単独も有用である可能性が示唆された。

欧米の研究

2000年に出された論文では、子宮頸がんの術後補助療法としてCCRTが放射線療法単独に優るとされていますが、腺癌においても同様の結果が得られ、CCRTの有用性が示されました。

ただ、日本ではまだどの治療が有効なのかははっきりとしていません。(人種間で差がある可能性がある)

日本でのランダム化比較試験

ガイドラインでは再発中リスクにはCCRTか放射線療法、高リスクにはCCRTが推奨されています。

しかし、2013年にがん診療拠点病院のデータを用いた解析では再発中リスク群の53%、高リスク群の48%に術後化学療法が行われていたことが判明しました。

放射線照射による腸閉塞や難治性のリンパ浮腫などの重篤な合併症が少なくないことから、放射線治療を積極的に行わない施設も多いのが現状です。

Ⅲ期以上の手術不可な症例に対するCCRTは、放射線治療は局所(原発巣の子宮頸部周辺の腫瘍を小さくするため)への治療、化学療法は全身に散らばったがん細胞を駆逐するための治療、というイメージですが

手術の後に化学療法を選択するのは広汎子宮全摘で徹底的に腫瘍を摘出し、あとの全身の治療を化学療法に任せる、というイメージです。

局所は手術で取り切っていると判断しているから放射線をしなくてもいいのでは?ということです。

2019年から日本でⅠBからⅡB期の再発高リスク子宮頸癌(扁平上皮癌も腺癌も含む)患者において、術後補助化学療法(抗がん剤単独)が全生存期間において術後補助同時化学放射線療法(CCRT)に劣らないかどうかを評価するランダム化比較試験(AFTER trial)が行われています。

2023年7月現在も続行中で、この研究で化学療法単独がCCRTに劣らないことがわかれば、放射線治療による重篤な副作用を減らすことができるかもしれません。

結論:ガイドラインはあるが、何が最適なのかはわかっていない

ここまでいろんな論文をご紹介しましたが、10年以上前の論文がほとんどです。

エビデンスがない領域で、最近研究がすすんでいるところで、施設間、医師間で治療方針が異なります。

組織型や病期、リンパ節転移の有無など、個々の症例によって何が一番いいのかも違うと思うので、主治医の先生とよく話し合って、自分が納得のいく形で治療を決めることができるといいと思います。